地図マニアな日々

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2018年4月5日


鉄道の廃線直後の地図に見る地図編集の妙

近年ローカル線の廃止が相次いでいる。地方で車が生活の基盤になっていることもあり、鉄道の乗客は減少する一方で、老朽化する施設のメンテナンスがかさみ、廃止はやむを得ない選択になってしまっているのが現状だろう。

この年度末にも広島県三次市と島根県江津市を結ぶJR三江線が惜しまれつつ廃止された。「惜しまれつつ」という言い回しも、廃止間際になると多くの人が押し寄せるのも、廃止ローカル線の定番。もしそれだけのお客さんが常に来ていたら、廃止されることはなかったわけで。

廃線の名残りを探す

さて、鉄道の廃止というニュースは地域にとって大きな出来事であり、当然地図の更新にも反映されなければならない。最近仕事の早さに定評がある国土地理院の地理院地図を翌4月1日に見たところ、早くも廃止区間の旗竿(JRの記号)は消されていた。ちなみに同時に確認した際には、GoogleマップやYahoo!地図、Map Fan、マピオン、いつもNAVI、オープンストリートマップといった有力Web地図は、いずれもまだ三江線は残ったままだった(※タイムラグはあるかもしれません)。新規の鉄道や道路の開通というのは地図を作る側にとってある意味目玉となるトピックだが、廃止というのはあまりテンションが上がらないのも事実だ。

廃止になったとはいえ、実際に現地に行けば、まだ線路そのものは地物として存在しているわけだが、鉄道として営業していないため、地図的には不要なものと判断されて削除されることになる。このあたりは、ありのままが表示される航空写真とは異なる点だ。

三次駅付近(地理院地図)。赤丸内の坑口記号や北側の川向かいにある斜めの帯状空白域などは廃線の名残り
20180404_1

同じ三次駅付近の航空写真(地理院地図)。こちらは鉄道が残っているので上図との違いがよくわかる20180404_2

地図編集の原則をヒントに

ただし、現段階の地理院地図は鉄道線だけが削除された状態で、そこに鉄道があった名残自体は残されたままだ。駅舎のように地物として存在するものに関しては撤去されない限り地図に残るが(もちろん注記や記号は消される)、例えば編集された等高線などはいずれ自然な形に修正されることになるだろう。

「編集された等高線(あるいは地形)」という概念は2万5000分の1地形図を見慣れない方にはピンと来ないかも知れないが、例えば鉄道の線というのは記号であって、実際の縮尺に基づけば鉄道の幅は地図上の鉄道記号(旗竿)の幅ほど広くない。それを視認しやすいように記号化しているわけだ。

これは道路の場合も同じで、2万5000分の1地形図における道路の表現は、実際の幅などから何種類かに分類して記号化している。つまり地図上の道路の太さを測って縮尺に基づいて計算しても、実際の道路幅とは一致しない。

地図上で実際の太さより太く記号化されれば、他の地物と重なってしまうという現象が起きる。例えば鉄道の側に道路が通っていたり、建物があったりすれば、鉄道を記号化して太らすことで重なってしまうわけだ。

そこで、それらの地物を少し動かしてあげることになる。これが「転位」と呼ばれる概念だ。転位には優先順位が決められていて、基本原則としては有形線(実際にそこにある線:道路や鉄道、河川など)が優先されて、無形線(実際にその場に線がないもの:等高線や行政界など)は転位させることになる。

こうした原則に基づいて廃線跡を見ていくと、色々と名残があることが分かる。

三江線の名残りを追いかける

黄色い道路と南側の崖(切土)の間に不自然な空白があるのは、鉄道記号があった際に転位されていた切土が廃線後もそのままになっているため(地理院地図)20180404_3

川沿いの崖記号が不自然に途切れているのは橋梁の名残り。右の航空写真では橋梁の存在が確認できる。本来の地形は橋梁の下にも崖があるはず(地理院地図)20180404_4

上原集落付近に盛土記号が残っている。本来鉄道と一体になって意味をなす盛土記号が廃線によって構造物である盛土のみが残ったケース。下原から北西方向へ等高線や崖記号と道路に沿った切土記号の間に不自然な空白が続いている。これも鉄道記号に伴う転位の名残り(地理院地図)20180404_5

黄色い道路に沿った盛土の片側にやはり不自然な空白がある。これも鉄道記号による転位の名残り。この部分は盛土を県道と鉄道が平行して走っていたことがわかる(地理院地図)20180404_6

こちらは図の中央付近に駅のホームがそのまま残されている。右の写真と見比べるとわかりやすい(地理院地図)20180404_7

赤丸内のように等高線が鍵形に曲げられているのも鉄道記号があった名残り。等高線が道路や鉄道を横切る場合は、その道路や鉄道と垂直に渡すように表現するのが原則で、編集した結果としてこの鍵形の等高線が出現する(地理院地図)20180404_8

地図編集から見た「廃線サイン」

以上はわかりやすい例だが、まとめると以下のような描画は廃線サインのようなものだと考えていい。
・構造物間の不自然な帯状の空白域
・整然と並んだ等高線の不自然な隙間
・山などの地形的障害や構造物がないのに坑口(トンネル)が残っている
・構造物がないのに盛土や切土が残っている
・盛土・切土・崖記号の不自然な途切れ
・盛土・切土記号と道路の間の不自然な帯状の空白域
・構造物がないのに鍵形に曲がった等高線

このように廃止直後に鉄道記号だけを削除した地図には、地図がどのように編集されているのかというヒントが隠されていたりする。興味のある方は色々と探しながら、地図上で三江線の名残りを追う旅を是非実践してみて欲しい。

個人的にはこの状態がいつまで地図に残るのか、という点にも注目したい(廃線マニアの方は「このままにしておいて!」と考えるかもしれないけど)。ちなみに北海道のJR留萌線の留萌~増毛間は2016年12月に廃止されたが、地理院地図では現在でも名残りを見ることができる。


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執筆者ご紹介  遠藤宏之(えんどうひろゆき)様
地理空間情報ライター(地図・地理・測量・GIS・位置情報・防災)、測量士、GIS NEXT副編集長
著書:『三陸たびガイド』『地名は災害を警告する』『首都大地震揺れやすさマップ』(解説面)『みんなが知りたい地図の疑問50』(共著)他