人と星とともにある数学 第12回

関・ベルヌーイ数誕生物語

人はたすことをやめない


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Σ(シグマ)公式を振り返る

連載は「人はたすことをやめない」シリーズとして第10回「ゼータ関数誕生物語」第11回「驚異の“ウルトラたし算”が宇宙を支える」と進んできました。これらの物語に必要なのがΣ(シグマ)記号です。今回は300年前の日本人数学者、関孝和の「たすことをやめない」物語です。

まずは高校時代に教科書に登場した総和公式から始めていきましょう。20161220_2

高校数学で習う総和公式

このΣとは、たし算を簡略化するために考えられた記号です。その特徴は、数列の和であることです。

数列はナンバリングを添え字で表します。数列の和を表すのに必要な情報は、①変数(ナンバリング)、②初項のナンバリング、③末項のナンバリング、そして④k番目の項を表す数列の一般項の4つです。20161220_3

総和記号Σ(シグマ)

Σ記号は総和記号とも呼ばれます。最初の公式に具体的な数値をあてはめて、総和が計算される様子を見てみましょう。

次は100項の数列の和を計算した結果です。Σ記号のおかげで100項すべてを書き出さなくてもいいこと、総和公式のおかげで和はnに100を代入した式を計算すればいいことがわかります。20161220_4 これがΣの風景です。総和公式とはn項の和をnで表した数式のことだとわかります。

総和公式のnを∞としたのが無限項の和(無限級数)を表すことになります。オイラーゼータは、一般項が自然数のべき乗の逆数とする無限級数です。20161220_5

オイラーゼータ

さて、冒頭Σの総和公式を眺めていると、なぜこのような公式が導かれるのか──証明と、この先の風景を知りたくなります。20161220_6

総和公式の証明のポイント パタパタ法

一般項がk2の場合の総和公式がどのように導出されるのかを、ざっくり辿ってみましょう。要になるのが次の式です。

(k+1)3-k3=3k2+3k+1

この式のkに1、2、3、…、nと代入した式をたし算します。すると、左辺に23と-23、33と-33、43と-43というような組合せができて打ち消し合うことでシンプルな結果が現れます。

私はこの計算を「パタパタ法」と呼んでいます。プラス、マイナスで“パタパタ”とたくさんある項が消えていくように見えるからです。20161220_7

総和公式の証明

総和公式の一般化を目指した数学者 関孝和とヤコブ・ベルヌーイ

以上のような計算を続けていけば、一般項がk4、k5、k6、…と総和公式はいくらでも計算できることになります。ならば、この計算を一般化できないかと考えるのは自然な流れです。20161220_8

総和公式の一般化(pは自然数)

総和公式の探究を行い公式の一般化に初めて成功した人物こそ、われらが算聖、関孝和(1640?~1708)とスイスが生んだ世界的数学者ヤコブ・ベルヌーイ(1654~1705)です。20161220_9

関孝和(1640?~1708)  ヤコブ・ベルヌーイ(1654~1705)

連載第10回「ゼータ関数誕生物語」に登場したのがヤコブ・ベルヌーイです。

驚くべきことに、二人はほぼ同じ時に“同じ”計算を行っています。二人とも法則を見つけるために、一般項k10まで総和公式を計算しているのです。20161220_11

二人の結果はそれぞれの没後、『括用算法(かつようさんぽう)』(1712年)と『Ars Conjectandi(推測術)』(1713年)で発表されました。

関・ベルヌーイ数の発見

二人とも、ある数にたどり着きました。その数を用いることで総和公式を一般化した公式を表すことができます。

その数はBnと表され、現在広くベルヌーイ数と呼ばれています。そして、総和公式はベルヌーイの公式と呼ばれています。しかし、関孝和の発表はベルヌーイの一年前です。私が関・ベルヌーイ数および関・ベルヌーイの公式と呼ぶ所以です。

関孝和は関・ベルヌーイ数を一級取数、二級取数、…、総和公式を朶積術(だせきじゅつ)と呼びました。この朶は垂れるという意味です。関の本を見てもわかるように、総和公式の風景は数式が垂れるように並んでいます。

関・ベルヌーイ数と関・ベルヌーイの公式の結論を眺めてみましょう。20161220_12

関・ベルヌーイ数と関・ベルヌーイの公式

関・ベルヌーイ数は、図にあるような漸化式と呼ばれる式から計算されます。関孝和とベルヌーイは関・ベルヌーイ数のもとになる漸化式の発見に成功したということです。

そして、次が総和公式を一般化した関・ベルヌーイの公式です。一般項がk2の総和公式を関・ベルヌーイの公式で計算した場合を載せておきます。20161220_13

ウルトラたし算と関・ベルヌーイ数の関係

第11回「驚異の“ウルトラたし算”が宇宙を支える」で自然数を1+2+3+4+5+…と無限にたし算すると、和が-1/12という“プッツン”した結果になることを紹介しました。

この信じがたい結果を導く計算こそ、ウルトラたし算( UT: Ultra Tashizan)ことゼータ関数(オイラーゼータ)です。4つの証明を紹介しましたが、1番目の証明に用いたのが次の公式です。ここにみえるBmが関・ベルヌーイ数です。20161220_14

今回は、関孝和とヤコブ・ベルヌーイがいかにして関・ベルヌーイ数にたどり着いたか、さらにオイラーによる上の公式の証明を紹介しませんでした。あまりにも詳細な計算が必要になるからです。しかし、そのどちらの証明もエキサイティングでエレガントです。

Σ(sigma)はギリシャアルファベットの第18字の大文字です。小文字はσで、英字のs、Sに相当します。英語で合計や和を意味するのがsummation、単にsumです。sigmaのsはその頭文字です。

関・ベルヌーイの公式やオイラーゼータといったΣの計算の旅を続けていると、オイラー、ヤコブ・ベルヌーイ、関孝和の感動が伝わってきます。Σの終着駅の風景があまりにもシンプルにまとまることに、驚きを禁じ得ません。

ぜひ、みなさんも高校数学の総和公式の証明から始めて、その先に待っている関・ベルヌーイの公式やオイラーゼータへの計算の旅に出発してみてはいかがでしょう。

関・ベルヌーイ数の未解決問題

最後に未解決問題を紹介して終えることにしましょう。それは、関・ベルヌーイ数Bnの定義についてです。

BnはΣと二項係数の数式の中に閉じ込められた姿をしています。いっそのことBn=Σの数式と表せば簡単にBnが計算できるのに、と思った読者もいたはずです。

問題  関・ベルヌーイ数をBn=Σの数式で表せるか。

これが未解決問題なのです。もし、関・ベルヌーイ数をシンプルにΣの数式すなわちnの式で表すことができたら、世界は驚き、その発見者の名は歴史に刻まれることになるでしょう。それこそ誰も見たことがない遙かなる風景です。

関孝和とヤコブ・ベルヌーイが発見した関・ベルヌーイ数は、今なお現代数学の礎として大活躍しています。次回はリーマンゼータ誕生物語へと進んでいきます。

執筆者ご紹介  桜井進(さくらいすすむ)様
1968年山形県生まれ。
サイエンスナビゲーター®。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。
(略歴)
東京工業大学理学部数学科卒、同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。 東京理科大学大学院非常勤講師。
理数教育研究所Rimse「算数・数学の自由研究」中央審査委員。 高校数学教科書「数学活用」(啓林館)著者。
公益財団法人 中央教育研究所 理事。
国土地理院研究評価委員会委員。
2000年にサイエンスナビゲーターを名乗り、数学の驚きと感動を伝える講演活動をスタート。東京工業大学世界文明センターフェローを経て現在に至る。 子どもから大人までを対象とした講演会は年間70回以上。
全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など様々なメディアに出演。
著書に『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。
サイエンスナビゲーターは株式会社sakurAi Science Factoryの登録商標です。