時空の旅 ~空間と時間と人間~ 第9回

標準

2013年8月1日


今回は音の旅です。

第9回 耳から受け取る情報 ~音

空間、時間、人間・・の「あいだ」に存在する様々な情報を見てまわるこの旅も9回目。
この世界はまだまだ、人の行動や判断に影響する「空間情報」に満ち溢れています。
目を凝らして見回せば、いろいろな形、大きさ、色、質感の情報に溢れています。そして耳をすませば・・。
気持ちが安らぐ音、懐かしい声・・。逆に不安になる音、危険を知らせる声。
今日は「音」を旅してみましょう。

落ち着かない音、落ち着く音

小学校の授業開始時などに使われている「ドミソ(起立!)-シレソ(礼!)-ドミソ(着席!)」。今でも耳に残っていると思いますし、この3つの和音が聴こえてくると思わず立ち上がり、礼をしてしまうのではないでしょうか?
この、起立と着席に使われる「ドミソ」という和音は、自然な音色で緊張感がなく「落ち着く」「戻るべきところ」という印象を与えるので、曲の終わりとして使われます。はい、おしまいですよ、という感じですね。またこの和音は安定していて、次にどんな和音にも続けることができるので、曲の開始としても使われます。今から始まりますよ、ということですね。「起立」(始まり)と「着席」(終わり)にピッタリです。

それに比べ、その間に使われている「シレソ」は、落ち着かず、緊張している印象を与えます。もし、次の「ドミソ」が聞こえてこなかったらどうでしょう?礼をしたまま頭を上げるタイミングを逸するだけでなく、どことなく中途半端でスッキリしない感じが残り、なんだかモヤモヤしませんか?

これは「ド→シ→ド」と続く音に秘密があるのです。「ド」に対して「シ」という音は、「ドに進みたい、ドに戻って落ち着きたい」という気持ちを起こさせる音なのです。何だか音にも意志があるようで、とても不思議。それで、「ド→シ・・」で終わってしまうと、居心地が悪い感じになり、「ド→シ→ド」と進めば、ホッと安心できるのです。

明るい音、悲しい音

こんな音のマジックで半ば条件反射的に「起立、礼、着席」したところで、この「ド・ミ・ソ」の真ん中の音「ミ」を、少しだけ低くしてみましょう。楽譜で書くと「ド・ミ♭・ソ」となり、ピアノでは半音(♭)下げることになりますが、自由に音程を調節できる人間の声やバイオリンなど弦楽器でしたら、ほんの少し低めにするだけでいいのです。

すると不思議。なんだか、もの悲しい印象の和音になります。授業の開始時に「ド・ミ♭・ソ」の音が流れたら、いきなりテンションが下がってやる気をなくすかもしれません。

挟んでいる上の音と下の音は変わらないのに、真ん中の音が上がったり下がったりするだけで、感じがガラリと変わってしまうなんて、微妙で不思議ですね。

「ド・ミ・ソ」は長三和音(メジャー)、「ド・ミ♭・ソ」 短三和音(マイナー)と呼ばれ、名前からしても何か不足しているような寂しいようなイメージです。なぜこのような感覚を受けるのか、脳波などとの関係も研究されているようですが、実はよくわからないようです。

でもこの音符をじっと眺めていると、私たち人間と重なってきませんか?
上の音が人間の頭、下の音が人間の足、と考えれば、頭と足は変化なく固定していても、ハートやテンションが上がったり下がったりすることで明るい気持ちになったり暗い気持ちになったりするのと同じ。そう考えれば、周りに明るい雰囲気を醸し出したいときには、顔や動作だけでなく、真ん中にある「心」を高めに持ち上げてみましょう・・ということですね。

ハーモニーのシナジー効果

「△と○の絶妙なハーモニー」とか「デュエットでハモる」など、2つ以上のものをうまく合わせることをハーモニー(harmony)といいます。
では、ここでクイズです。合唱やオーケストラの音楽はハモっているとして、日本の能の謡やお経の声明はハモっているのでしょうか?答えはYesです。西洋の合唱音楽のように和音にはなりませんが、2人以上で声を合わせている以上、ハモっていると言えます。ハーモニーとはギリシャ神話のハルモニアに由来し「一致、連結、調和」を意味し、複数、または2人以上が出す音に共鳴が起こっている状態を指します。
共鳴が起こると、単に音が人数分出ている以上の響きが得られ、「1+1=2」以上の充実感を味わうことができるのです。そして同じ種類の楽器、また双子や兄弟など、音質が似ている音は、より共鳴が強くなります。たとえばバイオリンの調弦をきっちりして音程を合わせ、ビブラートの掛け方や強弱を揃えること。

合唱や謡では、音程や発声、発音を揃える。それで共鳴が大きく強くなり、充実した響きになります。
これを異なる高さの音で共鳴させると、さらに豊かな共鳴と効果が得られます。物理的に言えば、楽器の音や人の声は、基本周波数とその整数倍音という成分からできているので、その倍音どうしを共鳴させるのです。
これが一般的に言われているハーモニーです。そして普段は人の耳には聞こえにくい「倍音」が、ハーモニーで共鳴することにより強調され、人の耳にも聞こえるようになります。高いドームを持つ石造りの教会などでは、この倍音がより強調されるため、なんとも神秘な響きになるわけです。

不協和音は必要?

不協和音。音楽の世界での狭義では、3和音の3度と5度の音程が長・短3度と完全5度である和音を協和音とし、それ以外の和音を不協和音とする定義ですが、そんな難しいことを言わなくても、人間の耳に濁って聞こえる和音、気持ちの悪い音の重なり、のことを指します。たとえば、ピアノの隣どうしの音を同時に鳴らした時。

また、実生活の営みの中では、お互いの意見やウマが合わなかったりして、仲の悪い状態を指します。
音楽にしても人間世界にしても、居心地の悪い思いを招く「不協和音」なんてなければいいのに・・。
おっと、待ってください。そうでもないかもしれません。

不協和音と言えば、まず現代音楽を思い浮かべるかもしれません。確かにクラシックと呼ばれる曲には不協和音は少ないですが、実は意外に効果的に使われていたりします。かのモーツアルトにも実験的(?)なのか、不協和音から始まる曲があります。不協和音をちょこっと使うことによって、曲に変化ができ、表現も豊かになるようです。もちろん、不協和音だらけの音楽はあまり歓迎されないので、使い方は難しいですが。

同じように、人間社会でも、ときどき起こる不協和音が、より強固な関係に結びつくことがあります。雨降って地固まる、という諺もあるように、仲良くしているだけでは進歩がない、というのも因果な話ではあります。

確かに不協和音の羅列は人間の耳には不快であり、お互いに意見の通らない関係は決して快いものではありません。でも、不協和音を構成している音や意見そのものはどちらも価値のあるものですし、使い方によっては効果的です。

不協和音はイヤだ、なんて言ってないで、ちょっと隣の人の声にも耳を傾けてみませんか。案外、面白いことを言っているのかも。思ってもみなかった情報が得られるかもしれません。


関連記事

第1回 虚像の空間
第2回 現在、過去、未来・・
第3回 美しいもの ~魔法の数字?
第4回 心地よいもの ~1/fゆらぎ
第5回 たかが色、されど効果は・・!
第6回 言葉 ~「思い」という情報を伝えるもの~
第7回 暦 ~時を告げるもの
第8回 時(とき) ~ロマンチックな堅物~
第10回 点、線、面
第11回 そして「光」があった
第12回 ~奥の深い話・・