時空の旅 ~空間と時間と人間~ 第4回

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2013年1月23日


前回コラムでは、空間を居心地よくする要素として「黄金比」を旅してみました。人が黄金比を心地よく感じるのは、それがDNAに仕込まれているから・・。今回は、自然界に仕込まれた別の要素「1/f(エフブンノイチ)ゆらぎ」を、かる~く旅してみたいと思います。では出発!

第4回 心地よいもの ~1/fゆらぎ

「ザー」の違い ~それは「ゆらぎ」

放送終了後のラジオから聞こえる「ザー」という音、降りしきる雨の「ザー」、川に雪解け水の流れる「ザー」。文字で書くと同じ「ザー」ですが、それぞれがその空間に与える印象は全く違います。

喫茶店で人を待つときも、単に白い壁を見るしかない場合と、そこに熱帯魚の水槽がある場合とでは、時間が流れるスピードさえ異なるようです。遅れてきた相手に向ける表情も、きっと違ってくるのでしょう。なぜラジオの「ザーー」はうるさくて、雨や川の「ザー・・」はうるさくないのでしょうか?なぜ熱帯魚のいる水槽は、見る人の心を穏やかにするのでしょうか?

それは・・「1/fゆらぎ」の存在であるらしい

自然界に存在するものには、必ず「ゆらぎ」があります。つまり、一定に見えても、厳密には「一定ではない」ということです。ゆらぎのない自然物はありません。ゆらぎが大きいと意外性・突発性が高く、次に何が起こるか分からないので、人は不安になります。逆にゆらぎが小さすぎると、安心ですが、単調で何の変化もないことに飽きてきます。

その中でも1/fゆらぎと呼ばれる、適度な規則性と適度な突発性、適度な予測性と適度な逸脱性を持つゆらぎが、人の心を落ち着かせ、居心地のよい空間と情報を与えるといわれています。

停車駅
※ゆらぎの物理的・数学的な説明はこのコラムの旅にはふさわしくないのでやめておきますが、簡単なイメージを描いておこうと思います。知っている方はそのまま通過してください。

『自然界に存在する「ゆらぎ」が発見されたのは、ほんの80年ほど前。電気的導体に電流を流した時の抵抗値が一定にならず、不安定に揺らいでいることによる。光、音楽、電気信号など波長を持つもの、また蝶、魚、風、炎など動くものは、その波形や軌跡をフーリエ変換により正弦波の和に分解できる。複雑な波形も、周波数(f:振動の多さ)やパワー(P:振動の幅)の異なる大小さまざまな正弦波が合わさったものであることがわかる。これを周波数の小さい順に並べた時、パワーが傾き45度のきれいな反比例になるものを1/fゆらぎを持つ、という。つまり、高音や動きの素早いものはパワーが小さく、低音や動きの鈍いものはパワーが大きく、しかもまんべんなく配分されている波形や動きが、1/fゆらぎを持つものの正体なのだ。』
上高地のせせらぎの音

ちょっと肩が凝ってきましたので、上高地のせせらぎでリラックスしてから旅を進めましょう。
※画像をクリックすると音が出ます。

狭いながらも楽しい我が家 ~モーツアルトの魔法

1/fゆらぎがあるといわれるモーツアルトを改めて聴いてみました。

年末に「大片付け祭り」を実施して不要なものはすべて捨て、完璧な収納術でピシーッと片付いた我が家に、モーツアルトのアイネ・クライネ・ナハトムジークが響いた途端、整然とした部屋のあちこちから「ほ~っ」というため息が聞こえたような気がしました。なんだか、空間全体が微笑んだような安心感に包まれ、すっかりリラックスした我が家でゆったりハーブティーなどを味わってみました。1/fゆらぎは別名「ピンクノイズ」とも呼ばれていますが、そのあたりにも秘密がありそうです。(1/fゆらぎは空間をもピンクにする!?)

さて、1/fゆらぎを持つものを眺めたり聴いたり感じたりしていると、必ず「時を忘れます」。たとえば、暖炉や焚火の火、ろうそくの炎、星の瞬き、小川のせせらぎ、滝の音、波が打ち寄せる音、木々のそよぐ音・・。それら1/fゆらぎに触れていると、時間を忘れます。1/fゆらぎに、その対極ともいえる「規則正しく刻んでいる時間」を忘れる効果があるとは、何とも不思議。その効果を利用して、人の待ち合わせが多いロビーや喫茶店には熱帯魚の水槽が置いてあるのでしょう。場所の利用目的と人間の心理をうまくマッチさせた空間となっています。
焚き火の音 ※画像をクリックすると音が出ます

揺らぐと困るもの

文明が進化すればするほど、人はゆらぎを排除しようとしているように見えます。手作りから工場生産での規格品へ。野菜も大きさをそろえて出荷。森を伐採して公園にし、等間隔で街路樹を植える、など・・。大量生産や工業規格などによって作られる人工物は、いかに「ゆらぎ:つまり規格外」をなくすかに努力が払われています。

日常生活で、ゆらぎがあると困るものの代表は「階段」。たま~に、最下段だけ微妙に段差の違う階段に出会うと、必ずそこでつまずきます。分かっていてもつんのめります。危なくて仕方がありません。定規や秤などの計測器も、もちろんゆらぎがあっては困ります。自分のぼた餅より相手の方が大きく見えるのは錯覚であり、きちんと量ってあると信じればこそ、文句を言わず与えられたものを食べられるのです。(食い意地は、ゆらぎとは関係ない・・)

時間の刻みにはゆらぎがありません。しかし、天体の軌道運動をはじめ、宇宙を形成するあらゆる分子の動きにはゆらぎがあります。時計は、これら天体が本来持つ小さなゆらぎを修正して人工的に刻ませているのです。(歳をとると時が経つのを早く感じるのは、ゆらぎとは関係ない・・)

ゆらぎのメカニズムがわかれば、人工的にゆらぎを作ることもできます。街路樹を1/fゆらぎの間隔で植えたり、シンセサイザーで完璧な1/fゆらぎ音楽の作曲もできます。しかし、1/fゆらぎを持つものが必ずしも心地よいとは限りません。時と場所によっては鳥の声や風鈴がうるさく感じたり、風や波の音が気になって眠れないこともあるでしょうし、逆に寸分の狂いもなく整然としたものに美しさを感じることもあるでしょう。

人が空間から受け取っている情報は一方通行ではない、ということをここでも感じます。黄金比と同様「何だか心地いいなぁ」と思うものが、結果的に1/fゆらぎを持っているのかもしれませんが、逆は必ずしも真ではありません。モーツアルトやバッハも、1/fゆらぎを計算して作曲したわけではありません。天才の彼らは、美しい、心地よいと感じる内的な衝動に駆られて曲を創り、その結果1/fゆらぎになったのです。

1/fゆらぎはなぜ心地よい?

人間の心拍リズムにも1/fゆらぎがあるといいます。正常に動いている心臓は単に規則正しく鼓動を打っているのではなく、1/fゆらぎを持って人間の生命を営んでいるのです。脳波のα波の周波数ゆらぎに代表される生体のリズムもそうですし、そもそも人の神経細胞が発する生体信号の電気パルス間隔は1/fゆらぎなんだそうです。

やはり黄金比と同じく、人が心地よいと感じる原因には、生体に埋め込まれた情報が関係しているようです。1/fゆらぎは、宇宙万物の集団の動き方の根本法則のようなものらしいとされていますが、その根源はいまだに謎です。

混沌とした宇宙に向かって神様が「光あれ」と言った時、その声にはユーミンや森本レオのような1/fゆらぎが含まれていたのかなあ、などとぼんやり考えながら過ごす「狭いながらも楽しい我が家」には、今日も金魚が悠然と泳ぎ、水槽の流水音が響き、クラシック音楽が流れ、窓から季節の香りを含んだそよ風が吹いてきます。
片付けは後にして、今日もハーブティーでまったりしよう。時を忘れて。


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