時空の旅 ~空間と時間と人間~ 第3回

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2012年12月26日


今回は、空間を居心地良くするもの、美しく見せるものについての旅をしたいと思います。

第3回 美しいもの ~魔法の数字?

そのヒントは「写真」です。写真は、ある空間情報を切り取ったものといえます。美しい風景に出会った時、人は思わずシャッターを押しますが、デジタルカメラだと、大抵その場で出来栄えを確認しますね。「よしよし、うまく撮れたぞ」と思うこともあれば、「あれ?なんか気に入らない・・」と納得できずに撮り直すことも。そんなシーンが今回の旅の出発点です。

美しいと感じさせるもの

まずは下の2枚の写真を見てください。これは、まずAの写真を撮った後、いまひとつ気に入らなくてBを撮り直し、「良し」としたものです。撮った人の、いったい何がそうさせたのでしょうか?皆さんはどちらが好きですか?どちらが落ち着きますか?あるいは、どちらが写真作品として良いと思いますか?

A B
写真 A 写真 B

人には好き嫌いがありますので一概には言えません。Aの方が、花がたくさん写っているので好き、真正面に富士山がある方が雄大でよい、と言う人もいると思いますが、写真のセオリーでいけば、Bの方が教科書的であり、実際見ていて落ち着きます。周りの人に聞いたところ、9割以上がBと答えました。

AとB、ほんの微妙な違いで間違い探しのような2枚ですが、どうしてこんなに印象が違うのでしょうか?タネを明かすと、Bの写真は富士山の頂上がほんの少し右下に寄っていること、それだけです。この写真のメインはもちろん富士山ですので、まず富士山に注目すると、富士山の頂上の位置が、Aでは写真のほぼ真ん中にあるのに対し、Bでは 1:1.6 の位置となっています。また、この写真では花畑がベースの役目を果たしていますが、写真の上端から草原の上端までを比べると、Aでは約半々なのに対し、Bでは 1:1.62 です(写真をクリックすると説明画像を表示します)。

ん?この 1.6 とか 1.62 とかいう数字にビビッと反応した人は、かなりの数学マニアか美術関係の方か・・。そうです。まさにこれは、人間が最も美しいと感じたり安定していると感じたりする「黄金比(1:1.618)」の構図になっているのです。

黄金比は、ミロのビーナスなどの彫刻やパルテノン神殿などをはじめ、美しいとされる芸術、美術、建築物で多く使用されていることで有名ですし、最近では、企業のロゴデザインや、ホームページのデザインを美しくする金属比の基本形としても知られています。また身近な日常でも名刺やタバコの箱、ITの世界でもPlayStationの画面やiPod なども。
しかし、黄金比は自然界にこそ、最も多く存在するのです。

生きていくのに必要?

もう一枚、この花の写真を見てください。散歩の途中、あまりの美しさに思わずシャッターを押したのですが、長い間、この花を美しいと感じるのは何故だろうと考えていました。

一つは色の美しさです。心温まる何とも言えないきれいなピンク色が絶妙なグラデーションとなって、見飽きることがありません。しかし、より心惹かれるのは、美しい花びらの並びです。こんなに幾重にも花びらがあるのに、一つとして重なり合っていない、その見事さ。まさしく、神の御業です!

調べてみると、この花びらの並び方こそ「黄金比」なのです。花びらにしても木の枝にしても、まんべんなく陽の光を受けるため、重ならず「黄金比」に従って並んでいます。360度を黄金比(1:1.618)で割った137.5度の位置から花びらが並ぶと、このようにバランスよく重ならずに配置されるのです(写真をクリックすると説明画像を表示します)!それは植物にとっては「美しさ」を追及するものではなく、生きるため、陽の光を受けて成長するために必要なことなのでしょう。でもその結果、こんなにも美しくバランスの取れた造形になるのです。そして人間の身体でも、身長VSヘソ下や、手の長さVS肘、はたまたDNAのらせんの1単位の長さと直径も黄金比。自然界には、探し出すときりがないほど黄金比が仕込まれています。

そう、人間が美しいと感じるのは、この人間のDNAのらせんをも形造る、生きるために必要な比率であり、キーとなる数字であり、重要なバランスなのです。黄金比は「神の比」とも呼ばれるそうですが、この世に存在するのに必要不可欠な比率だったのですね。だからこそ、このバランスを「美しい」と感じるように、本能に仕込まれているのでしょう。

1枚目の写真(A)を撮った後、画像を見て何とも落ち着かなくて2枚目(B)をカシャッ。そして満足。後で調べてみると、これが見事な黄金比の構図になっていたのですから、人間の感性って侮れませんね。

ITの世界でも・・

さて、それはそれとして、現代のIT社会に生きる我々は、「美しさ」などという感性より「利便性」という技術力を追及し研ぎ澄ますべきでは?空間情報をデザインする上では、黄金比はさほど重要ではないのかも・・?
ところが、黄金比はコンピュータの探索アルゴリズムでも使われています(黄金探索)。また、地下に埋設された水道管の穴を特定する手順にも、黄金比が使われます。単純に2分していくより、黄金比で分ける方が早く結果を得られるというのですから、恐るべし、黄金比。

また関係性を図示したりする場合、一つの原点から順に引き出し線を出していくとき、黄金比を使えば引き出し線が重ならないのですから、便利ですね。そして何より結果が「美しい」。

自然界のバランスを保ち、生きるのに欠かせない黄金比は、空間デザインにも欠かせない要素です。こんな魔法の数字が、空間情報の中にちりばめられていて、人はDNA のレベルで「美しい」とか「居心地がよい」「安心できる」「落ち着く」とか感じるのですね。

こんな精緻かつ神秘的な黄金比の力を借りて、生きる力に満ちた心地よい空間をデザインしていきたいものです。


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