時空の旅 ~空間と時間と人間~ 第1回

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2012年10月29日


空間も時間も、それを受け取る人間があってこそ、はじめて意味のある情報となります。 このコラムでは「空間」「時間」「人間」を中心に、ちょっとロマンチックで気ままな考察の旅をしていきます。

第1回 虚像の空間 ~されど人は憧れる

水面下に広がる虚像の空間

「波の下にも極楽という都がございます」と言って、平時子が安徳天皇を抱いて壇ノ浦の海に入水したというのは平家物語の話ですが、そんな悲劇も含めて、今を生きる私たちも水面に映る「向こうの世界」に惹かれるのはなぜでしょう。
東京都立川市、昭島市:国営昭和記念公園(2011年11月撮影)、池に映った景色はまるで鏡に映っているよう(日本庭園)

湖や池の中に展開される世界は、水面で反射した光を水面下から直進していると勘違いすることにより、あたかもあちら側にあるように見える現象。人間の錯覚であり、物理的に言えばそれは「虚像」。実際には存在しない空間であり、実体のないことは頭では分かっていても、見ているとすい込まれそうになります。あたかもそこに実際の空間があるような感覚に襲われます。

そして水面下の空間が実物より美しく見えるのはなぜでしょう。まだ見ぬ世界への憧れ? 現実からの逃避? 神秘的現象への感動?・・・人がそこに何らかの「想い」を投影することで、より美しく見えるのでしょうか。
東京都立川市、昭島市:国営昭和記念公園(2011年11月撮影)、色づいた木々の赤や黄色がみごとに水面上に再現(日本庭園)

憧れが作り出す心象空間

水に映る世界は<虚像の空間、虚空間>・・・。虚像の空間・・・。風が吹くと水鏡の世界だけが揺れ動き、風が強くなれば波にかき消え、夜には深淵に沈む、決して手に触れることのできない、はかない空間。しかし、人が憧れの想いを込めてそれを見つめるとき、それは「虚しい」空間ではなく、確かに存在する意味のある空間となり、実空間より確かなものとなって、人の心と記憶に残るのでしょう。

しかもよく覗き込んでみると、水の中には魚が泳ぎ水草も生えているので、実世界にそっくりな景色でも、そこにはまた別の世界があることに気づきます。池や湖などの水中には、地上を映し出した景色に加え、確かな命の営みもあるのです。そこがガラスの鏡に映る、うり二つの虚像空間との違いであり、人の空想を掻き立てる要素でもあります。
岐阜県高山市:上高地 明神池(2012年10月撮影)、「パワースポット」と言われる二之池

バーチャル空間が映し出す実像

「ないものがあるように見える」という意味では、「バーチャル、仮想現実」も同じかもしれません。近い将来、地球の裏側にいる友達とも face to face で話をしたり、体温を感じながら握手したりできるようになるでしょう。遠い昔に消滅した建築物や自然も鮮やかに再現され、居ながらにして世界中に行けるでしょう。ただし物理的に言えば、バーチャルで見せているのは実際にそこに光が集まって像を作り出している「実像」です。逆に、実体はなくてもよいのです。

ん?・・・とすると、実在するものを映し出しているのが虚像で、実在しないものを映し出すバーチャルは実像? う~ん、なんだか不思議な感じですね。それにしてもこんな風に、池に映る虚像の空間にロマンチックな空想をするのは人間だけなのでしょうか?
骨をくわえた犬が橋を渡るとき、ふと川を見ると、同じように骨をくわえた犬(しかも小刻みに震えて いて弱そうな)がいると思い、ワンと吠えて骨を落としてしまう - というのはイソップ物語「よくばり犬」ですが、犬も水鏡が作り出す空間には思わず我を忘れてしまうのかもしれません。

虚像の空間・・・そこに隠されている様々な意味と情報。まだまだ色々な謎や不思議が存在しそうです。


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