地図を編む ~マップル・ルーツをたどる旅~ 第六回

標準

2014年9月26日


第六回 地図注記の表記について ―「ケ」問題―


前回、地図注記のことに触れた際、茨城県の「龍ヶ崎市」やこれに関連する表記をめぐって、「竜」なのか「龍」なのか、といった漢字の字形にかかる地図編集者の悩みどころについて書いたが、地図表記の観点から、ここでついでに触れておきたいのが「ケ」問題である。「龍ヶ崎(りゅうがさき)」のように、「ケ」と表記して「が」と読ませる地名やこれを含む駅名等は、全国に多数存在する。そこで問題となるのが、この「ケ」を通常の大きさのカタカナ「ケ」として表記するか、あるいは、小さな「ヶ」として表記するか、という「ケ」問題である。

昭文社では、「ケ」と表記して「が」と読ませるこのような場合、現代の通行の出版物等の傾向を踏まえて、原則として小さな「ヶ」を用いることとしている。個人的にもこれが現代的な表記としてはスマートで適切ではないかと思っている。

しかし、地名をはじめ、地図上の注記となるとそうは簡単にいかない。誰しも「正式には」どうなのかが知りたいわけであるが、特に市町村名の名称や鉄道施設や空港・港湾施設の場合は、影響も大きく慎重な対応が必要だ。私自身も編集担当だった時分には、繰り返し当該のいろいろな機関のご担当に事情をお聞きしたりしてきた。その結果、「ケ」を推奨する機関、「ヶ」を推奨する機関いずれもあった。なお、「正式に」表記を定めているとはいっても、その実体は、まさに「条例」やそれに準じる法的行為によって定めているハイレベルから、もっとゆるやかな指針レベルの場合までさまざまであることもわかってきたのだが、ここでは各レベルとも何らか定めていれば「正式」ということにしておく。こうした取材を踏まえて、実態を整理すると次のようなことになる。
① 機関として表記規定を定めており、かつ、当該機関がその表記の使用に自ら積極的であり、また、市民、利用者、関係者にも積極的に仕様を推奨している実態がある。
② 機関として表記規定を定めているが、必ずしも積極的には使用が推奨されている状況にない。
③ 機関として、表記に関する見解を表明していない。

①であれば、その方向に従えばよいし、③であれば、当社原則に従って「ケ」問題については、小さな「ヶ」とすればよい。だが、実際には、②の場合が多いし、①と②の境界もはっきりしない場合がある。また、長期的には状況が変わることもあり、②については最終的にはその時点での編集判断に依らざるを得ないのである。

さて、何が「正式」かはさておき、一般の感覚では、このような「ケ」は、小さい「ヶ」表記が一般的なのに、どうして地名等だけは、大きな「ケ」で書きたがるのかな、という点はずっと疑問だったのだが、ある時、法律関係の出版社の方と話をする中ではっと気付いた。その方の話によると、日本では、法律、法令の文書の表記には、小さな仮名書きは、一切用いてはいけないことになっている、というのである。たしかに手元の六法全書や法律・法令の検索サイトを見てみると拗音や促音の「ゃ」「ゅ」「ょ」「っ」等すべて大きな字で表記されている(やっと近年、一部は解禁されたらしい)。なるほど! 法律文書では、すべて仮名は大きな文字で表記しなければならないとすると、地方自治法に基づいて設置される市町村等の自治体名称もまた、法律・法令の文中では、これに準じて表記されてきたのではないか。自治体名称や公称地名についていえば、「ヶ」「ッ」といった小さな文字での表記が地元や市民を含め社会的感覚に馴染んでいたとしても、いざ法的に「正式」となると、上記の扱いに準じるということになる・・・。

これは、憶測であり、この辺の事情をご存知の方には、是非ご教示願えれば幸いである。「ケ」問題を、真に市民感覚にフィットした形で解決し、適切な地図表記を実現するためにも・・・。

図1 一般に使われる小さな「ヶ」の事例(昭文社 『山と高原地図シリーズ』より)

図2 小さな「ヶ」でそろっている埼玉県鶴ヶ島付近


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執筆者ご紹介
飯塚新真(いいづか にいま)様
東京生まれ。1986年、株式会社 昭文社入社
編集部都市地図課、大阪支社勤務を経て、地図編集部情報課長、SiMAPシステム部長、地図編集部長を歴任
現在、ソリューション営業本部長