地図を編む ~マップル・ルーツをたどる旅~ 第九回

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2015年2月2日


第九回 これからも伝えたい地図編集の心(1)


地図の企画編集においては、①図取り、②縮尺、③図式、この三大要素が基本であり、この3つがうまく決まれば見やすく使いやすい地図が完成する。この①~③については、公共測量や基本測量における地図作成においては、そのすべて、または、一部が規則で固定されているわけだが、一般の実用に供される道路地図や都市地図、ガイドブックの観光地図など各種主題図については、地図の作成意図、対象地域によって慎重な判断とセンスが求められる。私が以前いた当社の地図編集部では、一つ一つの商品企画を進める際、この「図取」「縮尺」「図式」については、担当者の起案について、商品ごとにすべて編集長(役員待遇)の決裁が求められたほどである。

さらに、広範囲の地図の提供で内容量が多くなってくると1枚もののペラ地図では収まらなくなるので、書籍スタイルの地図帳(「ブックもの」)の体裁となる。すると、企画編集の要として①~③に加えて、④ページ建て、⑤造本(「開き」)という要素が加わる。もちろんこれも編集長決裁である。

さて、この⑤であるが、書籍や雑誌には「右開き」のものと「左開き」のものがある。文学書や週刊誌は縦書きの文章を収録するので、書物としては右側が綴じてあって、ページを右手で右へ開いていく「右開き」となる。一方、欧文書籍や科学書、電話帳など、横書きの文章を収録するものは、左側が綴じてあって、ページを左手で左へ開いていく「左開き」となる。
それでは地図を主体とした「地図帳」ではどうだろうか。

地図帳を「左開き」で作ると、ページの繰りやすさの関係から図1のように、横に連続する図郭については、必ず左(北が上の地図帳では西のほう)から右に進むことになる。逆に「右開き」で作ると、今度は図2のように右(北が上の地図帳では東のほう)から左に進むことになる。
地図中に配置される注記が原則横書きであること、地名・事項索引などのリストも横書きであること、という自然の流れに従い、実際、当社で刊行している地図帳の大半は「左開き」である。「左開き」の地図帳におけるページの進行
(一般的に大半の地図がこちらを採用)

図1  「左開き」の地図帳におけるページの進行
(一般的に大半の地図がこちらを採用)

「右開き」の地図帳におけるページの進行(東を巻頭側に置きたい場合にこちらを採用)

図2 「右開き」の地図帳におけるページの進行(東を巻頭側に置きたい場合にこちらを採用)

しかし、地図帳を使いやすく、しかも、読者の注目するエリアをなるべく巻頭に置こうとする観点から、あえて「右開き」を採用する場合もしばしばある。たとえば、「全国SA・PA道の駅ガイド」(図3)。この地図帳では、高速道路を路線ごとに道路台帳的に連続して紹介するページ立てになっているが、東名高速や中国自動車道など東西に連続する部分が多くを占める。かつ、東名高速を紹介する場合、本を開いた巻頭に起点たる東京を置きたくなる。また、中国自動車道も大阪圏から西へ進む紹介としたくなる。したがって「右開き」が採用されるところとなっている。

また、数年前に出版した「箱根駅伝まるごとガイド」(図4)は、そのコースを東京から箱根を東海道に沿って紹介する144ページほどの地図帳であるが、東西に連続する図郭のうち東京を巻頭に置きたいことから「右開き」とした(別途用意した復路の図は、巻末からスタートして収録)。全国SA・PA道の駅ガイド(昭文社) 「右開き」の地図帳の一例

図3 全国SA・PA道の駅ガイド(昭文社) 「右開き」の地図帳の一例

箱根駅伝まるごとガイド(昭文社) 「右開き」の地図帳の一例

図4 箱根駅伝まるごとガイド(昭文社) 「右開き」の地図帳の一例

ところで、以上は紙の地図、出版物としての地図帳の話をしたわけであるが、こうした地図帳のページを繰るときの使い勝手についての工夫は、デジタルデバイスにおける地図閲覧サービスのユーザーインターフェイスに十分受け継がれているだろうか?
これまで地図調製業界で培われてきた地図の企画編集三大要素(プラス二要素)のエッセンスを今一度、現代の地図技術開発にあたっている皆さんと共有させていただければと願っている。


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執筆者ご紹介
飯塚新真(いいづか にいま)様
東京生まれ。1986年、株式会社 昭文社入社
編集部都市地図課、大阪支社勤務を経て、地図編集部情報課長、SiMAPシステム部長、地図編集部長を歴任
現在、ソリューション営業本部長