地図を編む ~マップル・ルーツをたどる旅~ 第三回

標準

2014年5月30日


第三回 道路の話(1) ―特に「高速道路」の表現―


道路地図においては、高速道路、国道、都道府県道といったような凡例を設けて、道路の種別・区分・構造(幅員など)等を表示している。この分け方は、道路法や高速自動車国道法、国土開発幹線自動車道法、道路構造令その他の法令に示された区分に従って設定したいところではあるが、これら道路関係の法律は、道路管理者が道路管理のために作った性格のものであるから、実際その運用の結果として現れる具体的事象は、道路利用者や地図利用者の感覚と齟齬をきたすことがある。

民間道路地図では、道路利用者に対して、わが国土の道路網の全貌を紹介し、しかも、「いい道」「走りやすい道」をより積極的にアピールしたいというのが基本姿勢である。しかも、現地での標識表記など、走行感覚が地図表現とフィットしていて欲しい。これは、たとえば、最近の昭文社の道路地図の凡例の道路部分を見てもわかる通り、むしろたいへんシンプルな思想である。

図1 『マップル全日本1/25万道路地図』
(2014年4月発行)凡例における道路種別

ただし、当社の地図データベースは、官庁用途・業務用途をカバーする汎用性も維持しなければならない。そこで、上記の道路関係法令に基づく種別・区分をデータベースとして確保した上で、これを地図上で表現するためには、いささか「翻訳作業」を行う必要が生じる。この翻訳対照を大まかに示したのが次の一覧である。

表1 法令上・構造上の道路種別・区分と道路地図上での表現区分の対応
(①~⑥は、「図1」の凡例に付した番号に一致する)

とりわけ注意したいのは、「高速道路」という語は、道路法等の正式な概念を表すものではない、という点。昭文社では、道路利用者の通念に照らして、次のような要件を満たす道路を便宜的に「高速道路」としている。
① 高速自動車国道法で指定された道路(有料・無料を含む)
② 出入口がインターチェンジに限られ、おおむね時速60キロメートル以上で走行できる構造の自動車専用道路(有料・無料を含む)

たとえば、東京都世田谷区と横浜市を結ぶ『第三京浜道路』は、道路法上は、「国道466号」の有料区間であるが、片側3車線の自動車専用道路であり、地図上は「高速道路」となり、高速自動車国道法上の『東名高速道路』と同じような道路表現にしたい、ということになる。

また、秋田自動車道など地方部の「高速道路」では、本来、高速自動車国道として開通させるべきところを自動車専用クラスの「国道」として開通させたり、最近では、高速自動車国道でありながら料金を徴収しないいわゆる「直轄区間」があらわれたりしている。つまり、『秋田自動車道』は北上ジャンクション(岩手県)から小坂ジャンクション(秋田県)まで一連の「高速道路」(一部建設中)として表現されてはいるが、正式なことを言うと、「有料の高速自動車国道」「無料の高速自動車国道」「有料の一般国道の自動車専用区間」「無料の一般国道の自動車専用区間」これらが混在しているのである。しかし、道路利用者としては、『秋田自動車道』は『秋田自動車道』として一体の「高速道路」として把握できるように表現されていて欲しい。

このように、昭文社の道路地図データでは、道路の法令上の区分をきちんと確保し、かつ、その翻訳にも耐える図式(レイヤ)を目指している。
表1は、あくまで概念を示したもので、実際の仕様では、これら図式のそれぞれについて、「幅員区分」または「車線数」、「トンネル部分」、などの設定が加わり、道路利用者、地図利用者の感性になじむ表現のための基盤を用意しているのである。


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執筆者ご紹介
飯塚新真(いいづか にいま)様
東京生まれ。1986年、株式会社 昭文社入社
編集部都市地図課、大阪支社勤務を経て、地図編集部情報課長、SiMAPシステム部長、地図編集部長を歴任
現在、ソリューション営業本部長