地図を編む ~マップル・ルーツをたどる旅~ 第二回

標準

2014年4月25日


第二回 地図の転位と総描について -誇張した表現というもの-


地図においては、狭い面積の中に地物が錯綜した場合、人間が目で見て認識できるように「表現」されなければならないから、関係する地物を重要度に応じて「転位」(相対的な位置関係を崩さないように記号を真位置から移動)することになる。道路や鉄道が並行しているような場合は、平面上で平行移動させる感じになるが、この他にも、地物の位相関係を正しく認識させるために、さまざまな編集が行われることになる。

道路地図関係でよく事例に取り上げられるのが、高速道路等のインターチェンジ(IC)形状。ICの形状を縮尺通りの真位置で表現すると、2.5万分の1レベルより小さい縮尺の地図では、まず団子状につぶれてしまうだろう。
そこで、ネットワーク性、交差部の上下関係を保持したまま、これはもはやお絵かきであるが、形状全体のイメージを周辺より局部的に拡大して表現する。つまり、「誇張表現」であり、5万分の1でも20万分の1でも、ICの大きさだけは図上での大きさが近づくという現象が起きる。しかし、道路地図においては、交差する道路どうしのつながりや、分岐状況、カーブの方向などを視認させる必要があるため、ICの形状表現は、極めて重要な措置であり、絶対に手を抜けないシーンである(図1-A, B)。

図1-A  MAPPLEデジタルデータ200,000

図1-B  MAPPLEデジタルデータ50,000

昭文社の2.5万分の1以下の縮尺の地図は、基本的に道路の位置・形状は、国土地理院の測量成果に準じるのが大原則だが、「道路地図」としての実用的な用途を想定しているため、地形図に対してIC形状の追加や、道路の交差状況の現況に即した追加補正を行ってきている。地形図だけでは実用的な「主題図」たる道路地図にならないのであり、きめ細かな地図編集が不可欠である。

路線の交差部における形状イメージを保持するという点では、道路地図のみならず、登山地図においてもこの「誇張表現」が重要になってくる。昭文社の「山と高原地図」シリーズは、縮尺2.5万分の1から5万分の1を標準にしているから、図上の1cmは実距離500m~250mにあたる。この地図では、登山コースを赤色の実線(一部破線)で表示している(図2)。

図2 山と高原地図49「金剛・葛城」

たとえば、現地にY字型に分かれる分岐点があったとして、その地図上の表現を考えてみる。この分岐点を大縮尺の地図で「真位置」的に描いた図を(図3-A)とする。しかし、これを縮小編纂した地図にすると、Y字型にみえた分岐点は、つぶれてしまって、T字型に直交するような印象となってしまう(図3-B)。これだと、現地で実際この分岐に立った際、実景と図上の形状とのイメージがずれるのである。そこで、小縮尺の地図であっても、登山地図では、現地の交差部の実景イメージを表現するための誇張表現をとる必要がある場合が生じる(図3-C)。

図3-A:真位置で形状を示した大縮尺地図、図3-B:真位置で形状を示した小縮尺地図
図3-C:交差部を誇張表現した小縮尺地図

このように、地図においては、随所で地物を「真位置」に置いておくことができなくなり、「転位」「総描」「誇張表現」といった地図編集が生じている。適正な地図表現を保持するためのこれらの施しは、地図の縮尺を変えると(特に縮小すると)、当然ながらその都度、必要になる。昭文社の地図製品では、データを一元管理ではなく、1万・2.5万・5万・20万というように縮尺毎の別データとして保持している所以である。

【参考文献】
『最新 地形図の本(4版2刷)』大森八四郎(国際地学協会発行)1997


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執筆者ご紹介
飯塚新真(いいづか にいま)様
東京生まれ。1986年、株式会社 昭文社入社
編集部都市地図課、大阪支社勤務を経て、地図編集部情報課長、SiMAPシステム部長、地図編集部長を歴任
現在、ソリューション営業本部長